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東京地方裁判所 平成2年(ワ)16724号 判決 1992年6月30日

主文

一  被告は、原告に対し、金五億三七〇〇万円及びこれに対する平成二年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

理由

一  本件の事実関係の経緯についての判断

1  請求原因1の事実、同5のうち、原告が、被告に対し、(1)四月四日、五〇〇〇万円を現金を直接交付し、(2)同月一二日に二〇億円、(3)六月二九日に二七億四二〇〇万円、(4)八月三一日に二億円、(5)一〇月一九日に二億六〇〇〇万円を、いずれも被告口座に振り込んで、合計五二億五二〇〇万円を支払つた上、被告から、各金額の手形の交付を受けて手形貸付けとしたこと、同6のうち、被告が、七月ころ、才茂口座及びサンライズ口座を開設したこと、同月四日、三億四二〇〇万円を、才茂口座に入金したこと、同月一一日ころ、右入金のうちから、三億三七〇〇万円をサンライズ口座に移したこと、同月一七日ころ、これを被告口座に振替入金したこと、被告が、二億六〇〇〇万円を被告口座に入金し、一〇月四日、これを被告口座からサンライズ口座に振替入金し、同日、そのうち二億円を、サンライズ口座から被告口座に入金したことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いがない事実、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件売買の経緯

(1) 被告は、不動産の取得を希望する者に代わつていわゆる地上げと俗称される地主等の同意の取りまとめ等をも行つてきた不動産業者である。

(2) 原告は、青山通りに面する土地を取得し、自己所有地である本件(一)の土地をこれと地続きにし、ビルを建築することを希望していた。他方、本件(二)の土地の借地権者であり、本件建物の所有者である才茂は、右借地権付建物の売却を希望し、サンライズの代表者である宍倉久(以下「宍倉」という。)にその斡旋を依頼した。

(3) 宍倉は、才茂に対し、<1>原告が、本件(一)の土地の隣地である池田志朗その他一名所有の本件(二)の土地を取得すること、<2>原告との間で、本件(二)の土地の前面の青山通りに面する本件(三)の土地についての本件借地権及びその地上の本件建物を買い受ける旨の本件売買契約を締結すること、<3>原告が、本件建物の抵当権者であるオーディンに才茂の債務を弁済して、その抵当権設定登記を抹消すること、<4>本件建物を占有していたポーラを立ち退かせること、<5>本件建物の所有権の帰属を争つているポーラ代表者高橋と原告との間で和解すること、<6>本件(三)の土地の底地権者である鎌田から前記<2>の本件借地権譲渡の承諾を得ることを提案し、才茂の了承を得、これを原告に伝えた。

(4) 原告は、融資を受けていた住友銀行溜池支店の行員那須某(以下「那須」という。)に対し、二月ころ、本件売買の融資方を依頼したところ、那須は、一方で、被告の代表者猿橋岳近(以下「猿橋」という。)に対し、前示(3)の提案の調査・交渉方を依頼し、他方、原告に対し、本件売買の売主その他の関係者のとりまとめを猿橋にさせるよう勧め、原告は、これを了承したが、原告と被告間では、被告が行う業務に関する委任状や契約書等の書面は作成されなかつた。那須は、そのころ、原告の経理部長であり、原告代表者の娘である三ツ木に対し、その取得費用が四二、三億円であると伝えた。

(五) 宍倉と猿橋は、本件売買について実質的に交渉し、三月下旬には、実際の段取り等の大筋をまとめ、猿橋は、そのころ、原告の承諾を得て、小玉聡明弁護士に対し、本件売買についての交渉及び契約について、原告の代理人となることを依頼した。

(6) 本件費用の支払いについては、四月初めころ、原告と猿橋間において、まず原告が被告に支払い、次いで被告が売主ら関係者に支払う旨の合意が成立した。

(7) 被告は、サンライズとの間で、本件売買について、四月四日付け業務委託契約書を作成し、被告がサンライズに対し、本件計画上の付随的業務を委託したが、右委託契約においては、右売買の買主を原告、売主を才茂とし、被告を原告の受託者、サンライズを才茂の受託者とし、被告がサンライズに着手金五〇〇〇万円を支払うこととされていた。

(8) 猿橋は、原告に対し、宍倉の意向を固めるための証拠金としてサンライズに五〇〇〇万円を支払う必要があると言つて、右金員の支払いを求め、原告は、そのころ、これに応じ、被告に対し、現金で五〇〇〇万円を支払つた。また、猿橋は、そのころ、右の委託契約書のコピーを原告に渡した。

(9) 四月九日、本件売買について国土法の届出がされた。

(10) 四月一二日、住友銀行溜池支店に、才茂代理人村上守弁護士、原告代理人小玉聡明弁護士、原告代表者横山茂(以下「横山」という。)、猿橋、宍倉、オーディンの北見義郎及び阿部勝人らが集まり、両弁護士間において、本件売買についての協定(以下「本件協定」という。)が成立し、右協定書には、被告が立会人として記名、押印した。右協定においては、本件売買代金が三七億二〇〇万円、高橋との和解に要する費用が一五億五〇〇〇万円とされ、右協定成立と同時に原告が才茂に二〇億円を貸し付け、その貸金は後に本件売買代金の内金に充当することとされた。右協定に基づき、原告は、住友銀行溜池支店の自己の口座(以下「原告口座」という。)から、同支店の被告口座に、二〇億円を振替送金した。また、本件建物には、オーディンが才茂の被相続人を債務者とする極度額二五億円の根抵当権を設定していたところ、右二〇億円のうち、一五億円をオーディンに才茂の債務の弁済として支払い、オーディンから受領証等を受領した。右の残金五億円は、被告口座に残した。

(11) 五月八日、本件建物について、相続を原因とする才茂名義の登記がされ、同月一五日、本件借地権価格を三二億九二九〇万九四四八円とする土地売買等届出報告について不勧告通知が出された。

(12) 六月二三日ころ、猿橋は、原告に対し、自分が作成した「才茂裕子借地権付建物売買契約」と題する書面(甲第一号証)を示しながら、本件売買金額が三二億九二〇〇万円、本件建物の占有者の明渡料が一九億六〇〇〇万円であり、本件費用として、全体で五二億五二〇〇万円が必要であると説明した。

(13) 六月二九日、原告は、住友銀行溜池支店において、被告に対し、原告口座から被告口座に振替入金して二七億四二〇〇万円を支払い、更にサンライズ口座へ振り替えた。同時に、原告と才茂代理人村上守弁護士間で、代金を三二億九二〇〇万円として本件売買契約を締結し、「借地権付建物売買契約書」を作成した。また、原告と鎌田間で本件土地について賃貸借契約を締結し、本件建物の処分禁止仮処分権者である高橋との和解が成立し、本件協定の原告代理人であつた小玉聡明弁護士が、右仮処分の取下書を受領して取下手続をした。

(14) 七月中旬以降、原告は、猿橋から、宍倉が早く追加の金を払えと要求していると言われ、八月三一日、二億円を被告口座に振替入金して支払つた。

(15) 一〇月一九日、原告は、被告に対し、二億円及び六〇〇〇万円を被告口座に振替入金して支払い、総額五二億五二〇〇万円の支払いが完了した。被告口座に入金された各金銭は、前示(10)の五億円を除き、直ちに住友銀行溜池支店のサンライズの預金口座に振替入金された。

(16) また、同日、原告は、八月ころに成立した被告の報酬を一億円とする旨の合意に基づき、被告に対して報酬として五〇〇〇万円を支払い、支払期日を一一月三〇日とする五〇〇万円の約束手形を振り出した。

(17) その後、本件建物の占有者の明渡しも完了し、原告がその占有を得た。

(18) 三ツ木は、猿橋に対し、被告口座に入金する度に、才茂や高橋などの最終の金銭受領者が作成した領収書を交付するよう求めていたが、猿橋から、右の領収書を受領することはできず、単に被告名義の受取証又は領収書などを受領したのみであつた。

(三)  原告が支出した五二億五二〇〇万円の経緯について

(1) 猿橋は、七月三日、才茂口座を開設したが、その際に提出した印鑑票には、才茂の電話番号としてサンライズのものを、勤務先をサンライズとして記載した。

(2) 同月四日、猿橋は、前示(二)(13)の六月二九日の支払分二七億四二〇〇万円の一部から、三億円及び四二〇〇万円を、才茂口座に入金した。

(3) 猿橋は、同月一一日、サンライズ口座を開設し、右入金額のうちから、一億九七〇〇万円と一億四〇〇〇万円の二口をサンライズ口座に振り替え、同日、拓銀被告口座を開設し、同月一七日、右各金員をサンライズ口座から被告口座に振り替えた上、三億円の払戻しを受けた。

(4) 猿橋は、同月一九日、猿橋は、再び被告口座に三億円を入金した上、同額の金員を他銀行へのいずれかの口座に振込送金した。その際の出金額には、他銀行への文書扱いの振込手数料である五一五円が加算されている。

(5) 猿橋は、一〇月四日、原告から支払を受けた二億六〇〇〇万円を拓銀被告口座に入金した上、六〇〇〇万円及び一億円二口に分けてサンライズ口座に振替入金し、同日、サンライズ口座から、一億円二口と一〇〇〇万円を出金し、一億円二口を再び拓銀被告口座に入金し、同日、三五〇〇万円を、一一月二七日に一億七九〇〇万円をそれぞれ他行に振込送金した。

二  原告主張に係る不法行為の成否についての判断

前示一の事実によれば、原告と被告間においては、書面による合意はないけれども、原告が、那須の勧めに応じて、被告が才茂から交渉の依頼を受けていたサンライズの宍倉と本件売買について折衝することを承認していたこと、原告と被告間において、本件売買に係る売買代金及び費用は、いつたん原告が被告に支払い、被告が売主ら関係者に支払うこととされていたこと、被告が、サンライズとの間に締結した本件売買に係る業務委託契約書のコピーを原告に渡し、サンライズに支払う着手金五〇〇〇万円をサンライズに支払うことを求めたところ、四月四日ころ、原告がその支払いに応じたことが認められ、これによれば、遅くとも右金員支払時点において、原告と被告間において、本件売買について、被告が原告の代理人として、売主との折衝、及び代金の支払いの代行等をする業務委託契約が締結されたものと認められるところ、買主から右のごとき業務の委託を受けた者は、その委任の趣旨に従い、善良な管理者として、その業務を行う業務を負い、特に売買契約締結の決定要素の核心である売買代金、売買に要する費用の内容については、正確に委託者に報告し、自己の報酬金については、委託者の承諾を得ることを要し、これを売買代金又はその費用名下に受領することは許されないものと解され、本件売買について、被告が売買代金又は費用名下に受領した金員について、被告がその支配下に納めた以上、特段の反証のない限り、その金員を不法に領得したものと推認される。

そして、前示一の事実、《証拠略》によれば、原告が本件建物及び本件賃借権の取得費用として猿橋に交付した金員のうち五億三七〇〇万円が猿橋が開設した拓銀被告口座に入金され、被告の支配に属したこと、被告が猿橋に右金員を支払つたのは、猿橋が、六月二三日ころ、原告に対し、自分が作成した「才茂裕子借地権付建物売買契約」と題する書面(甲第一号証)を示しながら、本件売買金額が三二億九二〇〇万円、本件建物占有者の明渡料が一九億六〇〇〇万円であり、本件費用として全体で五二億五二〇〇万円が必要であると説明し、原告がこれを信じたことによるものであること、三ツ木が、宍倉に対し、九月二六日ころ、八月三一日に支払つた二億円をサンライズが受領したかについて確認したところ、宍倉が、支払いの催促もしていないし、現金も受け取つていないと返答し、その後、原告に対し、いつたん住友銀行溜池支店のサンライズの口座に入金して支払われた金員のうちから合計五億三七〇〇万円を猿橋に戻したことを話したことから、原告は、既払金の全額がサンライズを通じて売主らに支払われてはおらず、被告口座に入金された金員があることを初めて知り、三ツ木が、猿橋に対し、この点を質すと、猿橋は、これを否定した上、一〇月四日ころ、那須を通じて、「才茂弘子借地権付建物取引明細」と題する才茂の名を誤記した書面(甲第二号証)などを交付し、一〇月一九日には、総額五三億五二〇〇万円の原告宛被告名義の領収書、「支払売買代金の確定通知書」(甲第三号証)及び「支払委託料額の確定通知書」などを持参したが、右は、いずれも猿橋がかつてした費用に関する説明にほぼ沿うものであつたことが認められ、右の各事実によれば、被告は、原告から交付を受けた金員のうち、五億三七〇〇万円については、本件費用名下にこれを詐取したと推認するのが相当である。

三  被告の主張に対する判断

被告の主張は、必ずしも明確ではなく、後述するように変遷が認められるけれども、要するに、五二億五二〇〇万円は、本件費用としてサンライズに支払われたものであり、したがつて、サンライズがこれを処分することができるものであるところ、サンライズと被告間の合意によつて、そのうち五億三七〇〇万円を、被告の報酬又は諸費用として受領することとされ、これをオーディンに対する支払いに用いたため、被告の下には残つていないとするものであると解される。しかしながら、

1  右五億三七〇〇万円についての被告の主張は、数次にわたり種々に変遷しており、その金額の多額なこと、被告は本来その使途を明示できる地位にあること等に照らせば、右主張の変遷は、被告主張の信用性を著しく減殺せしめるものといわなければならない。すなわち、

(一)  答弁書及び平成三年三月二〇日付け準備書面においては、被告が、原告から五二億五二〇〇万円を受領したことは認め、受領額は、これに一億円を加算した額であり、原告と被告間において、請負金額を五三億五二〇〇万円とする請負契約が成立し、うち一億円が被告の報酬であり、残額五二億五二〇〇万円が本件売買に必要な費用であつたこと、及び請負の完了までは、原告が被告に対し、貸付金として支払うこととしたことを各主張していた。

(二)  次いで、平成三年七月五日付け準備書面においては、被告が、合計五億三七〇〇万円を、サンライズ口座から拓銀被告口座に入金した事実自体は、認めつつ、原告が支払つた五二億五二〇〇万円は、全て被告がサンライズに支払つており、その後の支払先は知らないとして、右五億三七〇〇万円が、原告の右支払額に由来するものではあるかどうかは知らないとする主張をした。

(三)  平成三年一一月一一日付け及び同年一二月一一日付け各準備書面においては、それまでの認否・主張を撤回し、原告と被告間には何らの契約関係も成立しておらず、本件費用の支払いには関与しておらず、原告から支払代行の依頼も、金銭の預託も受けていないとし、したがつて、詐欺、横領いずれもあり得ないものであると主張し、五億三七〇〇万円は、原告からサンライズに支払われ、サンライズの資金となつたもののうちから拠出されたものであるとしつつ、同時にサンライズが本件費用の支払先は明らかにしていないため、被告はこれを知らないとした。

(四)  平成四年三月二三日付け準備書面においては、原告と被告間に、被告が、本件費用を貸付金として受領し、本件売買が完了した場合には、その返済が免除される旨の契約が成立していたとの主張を行い、右契約においては、業務の内容報告及び金銭の清算義務を伴わないものであつたとして、原告が支払つた金銭のうちには、被告が取得し得べき部分も含まれることを前提とする趣旨の主張をした。

(五)  平成四年四月一四日付け準備書面においては、本件費用として五二億五二〇〇万円が必要であつたとし、右金員の受領を認めつつ、貸付金として受領したにすぎないから横領ということはあり得ないとする一方で、うち五億円を除いて、被告口座から直ちにサンライズ口座へ移され、支払義務は住友銀行溜池支店が担当していたものであるから、被告の管理が及ばないものであつたとし、金員を受領した事実そのものを認めないかのごとき主張を行つたが、両主張の整合関係は、必ずしも明確でない。さらに、右準備書面及び平成四年四月二三日付け準備書面においては、五億三七〇〇万円は、サンライズと被告間の約定に基づき、被告が報酬として正当に受領できる権利があつたとしている。

2  原告が、猿橋に対し、支払つたはずの金銭が被告に還流しているのではないかと問い質した際、被告が全額サンライズに支払つた証拠として被告が那須を通じて交付した「才茂弘子借地権付建物取引明細」(甲第二号証)の明細には、具体的な支払先は一切記載されておらず、かつ、甲第一号証による支払額に符合する支払項目がない部分も散見されること、七月一七日ないし八月一〇日の支払分は、その時点での原告の被告に対する既払額を上回ること、甲第一号証においては、それまでの既払金のうち二〇億円を全額本件売買代金に充当したことを前提として残代金一二億九二〇〇万円が算出され、甲第二号証においても、四月四日の五〇〇〇万円、六月二九日の支払一二億四二〇〇万円の各支払いで本件売買代金全額の支払いが完了したと解される記述をしているが、右は一〇月一九日に猿橋が示した甲第三号証の記載と一致しないことに照らすと、甲第二号証の記載が、支払状況を事実そのままに記載したとは認め難い。

3  被告に不正がなく、五億三七〇〇万円をオーディンに対する支払いなどの本件売買に要する費用に用いたのであれば、被告は、その旨原告に説明すれば足りるのに、本訴に至るまでその旨の説明をしていない。

4  五億三七〇〇万円の内訳及び使途等について、七月一一日に才茂口座からサンライズ口座、更に拓銀被告口座と移動した一億九七〇〇万円及び一億四〇〇〇万円は、本件売買代金内訳のうち才茂家の内部和解金、高橋との間の紛争の解決の斡旋料に一致し、一〇月四日の二億円は、明渡料のうち保留金二億円の合計額に一致するところ、次の各点に照らすと、右五億三七〇〇万円に相応すると解される支払項目が、実際に予定され、支出されたというには疑問が残るといわなければならない。

(一)  右内部和解金、解決斡旋料は、本来、前掲甲第一号証の記載に挙げられた本件売買代金の残金一二億四二〇〇万円の一部として、二億円も保留金として各計上され、原告の知るところとなつていたのであるから、殊更これを原告に隠して、サンライズ口座及び拓銀被告口座に移動させて処理する必要はないはずであり、また、六月二九日の支払いが右残金に充当されたのであれば、原告の本件売買の残金の支払いは完了していたことになり、七月一七日時点で改めて拓銀被告口座にこれらに対応する入金をしたのは不合理であること、

(二)  また、一億九七〇〇万円は、前掲甲第一号証において、才茂の取得金とは別に計上されているが、その趣旨が明確でなく、本件売買代金として一括して支払い、才茂と相続人らで内部分配すれば足りると考えられること、

(三)  一億四〇〇〇万円についても、被告代表者本人尋問の結果中には、宍倉が直接高橋と折衝できず、斡旋を依頼した者に支払うとして宍倉から要求されたものであるとする部分があるが、他にも「高橋処置」の目的で一億六〇〇〇万円が計上されており、これとの関係が明確でないこと、

(四)  五億三七〇〇万円のうちの二億円は、本件協定書及び本件売買契約書によれば、ポーラの明渡しと引換えに支払う予定とされていたことが認められ、一〇月時点まで留保されていたことは、これに符合するが、その後においては、拓銀被告口座から、一〇月四日に三五〇〇万円、一一月二七日に一億七九〇〇万円が支出されており、右予定と整合するとはいえないこと。

5  以上検討した結果によれば、被告の前記主張は採用し難いというべきである。

他に前示二の認定を左右するに足りる証拠はない。

四  そうすると、被告は、原告に対し、詐欺による不法行為に基づく損害賠償として、五億三七〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成二年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五  以上によれば、原告が選択的に求める本訴請求のうち、詐欺による不法行為に基づく損害賠償請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言について同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筧 康生 裁判官 深見敏正 裁判官 内堀宏達)

《当事者》 原 告 横山自動車興業株式会社

右代表者代表取締役 横山 茂

右訴訟代理人弁護士 岩丸豊紀

右訴訟復代理人弁護士 柴谷 晃

被 告 三和資源開発株式会社

右代表者代表取締役 猿橋岳近

右訴訟代理人弁護士 恵古シヨ

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